直腸脱とは
直腸脱は高齢の人、特に出産回数の多い痩せた高齢女性に多くみられる疾患です。該当する高齢女性が「大きな痔が出ている」といった場合、本疾患も考慮する必要があります。
直腸が肛門外に翻転脱出(inside out)して、本来内臓である直腸粘膜~肛門の内側が外にひっくり返って外界に曝されるため、下着に擦れて出血したり痛くなったりします。高齢女性に多いという特徴があることを指摘しましたが、同時に子宮脱(子宮が外陰部から外に飛び出している)や膀胱脱を合併していることも多くみられます。
直腸脱の原因
主な原因は加齢に伴って、肛門括約筋などの骨盤底筋が脆弱化するためです。多くの内臓を格納している腹腔という空間の底は骨盤で形成されていますが、その骨盤の底は骨などの硬い組織ではなく筋肉組織でできています。(骨盤底筋筋群)
この筋肉群は経膣の出産や高齢化によって徐々に傷み、弛緩してゆきます。こうして底が抜けたようになってしまうため、内臓、とくに一番外に近い直腸や子宮が脱出してしまうというわけです。背中が曲がってしまう円背などの状況も、腹腔内圧を上昇させ、直腸や子宮を外に押し出す方向に作用します。
まれに先天的に腸が長かったり筋肉が弱いなどの特殊な疾患で直腸脱を伴うケースもあります。
直腸脱の症状
直腸脱の症状の特徴は、見た目の派手さの割に症状は地味だという事です。直腸が10㎝ほども脱出している様子はなかなかにインパクトがあり、さらに子宮脱なども合併していたら、初めて見る人だと驚きを禁じ得ません。しかしながら、比較的簡単にスッと引っ込んでしまうため、本人はあまり痛がったりもせず、病院に来るのも遅れがちになります。
はじめは少し出てはすぐ引っ込む、といった感じで痛みもほとんどなし、少し下着に粘液が付くくらいであったものが、次第に飛び出す部分が大きくなり、長時間飛び出すようになり、粘膜が擦れて出血し痛みを感じるようになります。
直腸脱の治療
原因が組織の脆弱性によるものなので、薬では改善しません。治療は手術療法のみになります。
手術方法がいくつかあるので紹介します。
①経肛門的手術
- Gant-Miwa法
- 脱出して間延びしてしまった直腸の粘膜を絞り染めのように結紮して短縮してゆく方法です。図を見ると分かりやすいと思いますが、こうして短縮化したの ちに絞り染めした部分は脱落壊死しますので、粘膜面はきれいになります。リスクの高い高齢者には安全な術式です。
- Thiersch法
- 直腸脱の人は脱出した直腸により肛門が拡大しています。この出口である肛門を狭くすれば出てこなくなるという論理です。肛門周囲に溶けない素材の繊維などをリング状に埋め込み、肛門の最大径を狭くします。もっとも簡単な方法です。
- Delorme法
- Gant-Miwa法では過長になった直腸粘膜を絞り染めのようにして短縮します。Delorme法では環状に粘膜を直接切り取って短縮しますが、粘膜縫合部ができるため縫合不全という合併症に注意が必要です。
②経腹的手術
経肛門的な手法では肛門からのみ行う手術でしたが、経腹的手術では腹部からのアプローチになります。直腸が下に垂れているんだから上に引き上げればいいという発想です。実際、こうして腹腔側から引き上げる手術の方が根治性が高く再発しにくいです。ただ、全身麻酔が必須であること(これが、高齢の方の場合は非常に大きなリスクになります)、長時間の手術になること(腹腔鏡では傷はわずかですが、開腹術よりもより時間がかかります)などの点から、手術に当たっては十分な検討が必要です。経腹的手術の場合は以上の理由から入院が必須です。
当院では経肛門的手術を外来日帰りで行っており、良好な結果を得ております。経肛門手法であれば全身麻酔も必要なく、短時間で可能だからです。高齢の方の場合、全身麻酔の手術後に譫妄状態になり認知症が進行したり、寝たきりになってしまうケースが少なくないため、手術適応は慎重に決定すべきです。
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