執筆:医学博士 小林真一郎(こば消化器・乳腺クリニック院長)

乳腺症とは

乳がん検診を受けて、「乳腺症」と言われたことのある方は多いでしょう。乳腺症はもっとも普通に見られる乳腺の良性疾患ですが、どういうものでしょうか。ここでは乳がんに間違われやすい、乳腺症について説明します。

乳腺症の原因

女性はホルモンによって生理周期など、体が周期的に変動を続けます。さらに妊娠、閉経と大きなホルモンの変動が体にも影響を与え、乳腺も変化を受けます。そうして乳腺が大きくなったり小さくなったりを繰り返しているうちに、乳腺組織の中に乳腺が肥大した部分と乳腺が退縮した部分が混在するようになり、乳腺症になるといわれています。乳腺症とは乳腺の老化現象の過程で起こる、乳腺の不均一な状態といえます。

乳腺症は、ホルモンバランスが大きく崩れはじめ閉経に向かう40~50歳の方に多く見られる傾向があり、閉経後の60代以降は激減することから、女性ホルモンであるエストロゲンの過剰分泌などが原因と考えられています。

乳腺症の症状

乳腺症の代表的な症状は「胸の痛み」です。この乳房の痛みは圧迫によって増強し、生理周期と連動する場合もそうでない場合もあります。乳がんの場合はほとんど痛みはありません。痛みを感じるような乳がんは、よほど腫瘍が巨大であるか、もしくは乳腺そのものが乳腺症であって、さらに乳がんになった場合がほとんどです。

また「乳腺の張り」も主な症状の一つです。胸が張ったり、あるいは胸の横~ワキが張ったりつったり、という訴えが多くみられます。乳がんでは乳房の張りはほとんど見られません。炎症性乳がんなど一部の特殊な乳がんであれば張った感じもあり得ます。

「しこり」もよくみられる症状で、乳がんと鑑別しなければならないポイントです。しこりとは触診上、乳腺に硬い感じや塊感があれば、そのように表現します。乳腺症では乳腺組織の不均一な状態があるため、しこりを感じる場合も少なくありません。

乳腺症のしこりの特徴は、「両方」の胸に見られ、またあまり「ハッキリしない」という事です。乳がんなどの腫瘍では、ほとんどで片側に見られ、よりハッキリとした感じがします。ただし!例外的に、左右同時乳がんや腫瘤非形成乳がん(塊にならず、乳腺内に散らばるようながん)もあるので、自己判断はせず、必ず乳腺科を受診してください。よく検診センターなどには乳房の模型が置いてあって、腫瘍の硬さを再現してありますが、あまりリアルではありません。重要なのは、ときどき自分の胸を触って感触を覚えておき、「いつもと違う」ことがある場合に気づくことです。

乳腺症では乳頭からの分泌液を認めることもありますが、透明~淡黄色~白色であることが多く、これらの性状の分泌液は正常乳腺でも見られるものですので、さほど心配はいらないでしょう。血液のような感じやチョコレート色のような濃い褐色の分泌液が、片側の乳頭の決まった部分からだけ出てくるような場合は直ちに乳腺科受診をお勧めします。

乳腺症の治療

「乳腺症」といかにもな名称がついているものの、病気とまでは言えない「乳腺の状態」です。年齢を重ねていくうちに乳腺に生じる変化や状態を表す表現であり、決して異常な疾患という意味ではありません。基本的に乳がんは乳腺症とは無関係であり、乳腺症に対する治療は必要ありません。

たまに乳腺症による乳房の痛みが強く、生活に影響が出ることがあります。継続的な強い痛みのある場合には、鎮痛剤やホルモン剤を使用して乳腺の痛みや張りを軽減することもあります。

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