歯状縁より内側は直腸粘膜、外側は通常皮膚(表皮)になります。粘膜は痛みを感じにくく、皮膚は痛みに非常に敏感です。
このことは後述する肛門疾患の症状を考えるうえで重要な特徴です。
痔疾患の中で最も多くの人を悩ませるのがいぼ痔(痔核)でしょう。その名のごとく、肛門周囲にイボができたような腫れた感じや外に飛び出してる感じ、肛門に何か挟まっている感じがします。女性の妊娠時に悪化することはよく知られていますが、多くの場合は便秘や食生活、行動パターンからくる生活習慣病と考えられます。
内痔核が悪化して肛門外に飛び出した状態(脱肛)では疼痛も強く、出血などの随伴症状もあるため辛いものになります。
急激に脱肛になり、ひどい腫れのため元に戻らなくなった場合は嵌頓(かんとん)痔核といわれ、強烈な痛みがあります。
痔はいったい何個できるのでしょうか?
外にボコッと出ていても、それが何個なんてわかりませんね。
痔にはできやすい箇所が3か所あります。時計でいうと3時、7時、11時の位置です。ここには痔動脈(上直腸動脈の分枝)が流れていて、痔の本質であるうっ血する血流の供給源となっています。これらの場所にできる痔は大きくなりがちで主痔核と呼ばれています。
他にも副痔核といって主痔核と主痔核の間にできるものもあり、実際は個数という表現はあまり意味がないようにも思います。痔核は富士山のようにボーンと1個大きなものができることもあれば、ヒマラヤ山脈のように連続していくつも並んでいることもあるのです。
いぼ痔の多くを内痔核が占めています。
長期的に悩ませるいぼ痔は内痔核が主たる原因であることが多く、重症化することも内痔核のほうが多いです。
最大の原因は排便異常(慢性的な便秘・下痢)です。便秘の場合は長時間いきみ、下痢の場合は何度もいきむため、肛門の周りにある静脈ネットワーク(肛門静脈叢)にうっ血(血液の流れが滞り、血が充満すること)が起きます。
もともと肛門には密閉させるために肉厚になった部分(肛門クッション)があるのですが、その部分もうっ血し痔核化します。また、女性の妊娠や、日常の中で肛門を圧迫するような生活パターンは肛門周囲のうっ血を招き、痔を増悪させます。
うっ血癖のついた肛門クッション組織は徐々に腫れてゆき、器質化して硬くなり、ついには不可逆な(しぼむことのない)痔核となってしまいます。痔核が一定の大きさ以上になると、排便時に肛門外に飛び出す(脱肛)ようになり、さらに大きくなると嵌頓痔核となって脱肛したままで大変痛い状態になります。
内痔核は元々歯状縁より内側、つまり口側にできます。この直腸と連続した粘膜部分には知覚神経が乏しいため、内痔核の初期にはほとんど症状はありません。自覚症状のない、自分は痔とは関係がないと思っている人も、初期の内痔核を持っていることはよくあります(大腸の検査などで偶然指摘されることも多い)。
しかし内痔核は急速に腫れ上がることがあり、そうすると症状は自覚されるようになります。大きく腫れた痔核は肛門に挟まったり、排便時に肛門から飛び出すようになり、擦れると出血などみられるようになります。腫れている部分が歯状縁よりも口側だけであれば痛みがなかったものも、痔核が大きくなるにつれ、歯状縁よりも肛門側(外側)も腫れるようになってきます(外痔核の合併)。この段階では痛みも現れてきます。
内痔核の程度を表した「Goligher分類」に基づいて進行度をまとめると以下のようになります。
坐薬や軟膏、内服薬などの薬単独による治療から、注射・手術による治療法まで様々な治療方法が広く行われていますが、当院の治療方針は患者さんが何に苦痛を感じているのかを明確化したうえで、それを優先的に解消できるような治療方法を選択しています。また複数の治療方法が選択しうる場合には、治療方法ごとのメリット・デメリットをきちんと説明して、最もご納得いただける方法を施行しています。
肛門に使用する軟膏・坐剤は局所の循環改善や鎮痛消炎作用を期待して使用します。内服薬は排便の改善や、循環の改善、消炎鎮痛などを目的に使用します。止血を目的に使用する薬などもあります。
非常に急激に悪化した内痔核で、脱肛した内痔核が肛門外に飛び出しているため、肛門で痔核が締め付けられてうっ血がさらに悪化して悪循環に陥ったものです。痔核や肛門周辺は非常に大きく腫れ上がってむくんでおり(浮腫)、激しい痛みを伴います。
嵌頓(かんとん)とは、飛び出したものが元に戻らない状態を表す医学用語ですが、この場合、押し込んでも元に戻らなくなった脱肛痔核と定義できます。この場合、すみやかな医療機関受診をお勧めします。長引けば組織の壊死や感染も加わり、治療にはより長い時間とコストがかかることになります。
まず急激に腫れ上がった痔核のむくみ(浮腫)を軽減させるため、さまざまな薬を駆使して痔核をできるだけ小さくします。これで治るのならいいのですが、通常はある程度まで萎んだあとも、何らかの異常が残ってしまうことが多いです。内痔核も残りますが、嵌頓痔核が猛烈な腫れ方をしたせいで、肛門周囲の表皮が伸びてしまい「皮膚のタルミ」として残ってしまうのです。
再発の危険性も高く、不快感が強かったり何らかの症状があることが多いため、嵌頓痔核はある程度まで萎ませた後に根治術を含む外科的療法を併せて行った方が良いと考えられます。
外痔核の典型的な症状は、肛門にイボがが急にできて痛い、というものです。外痔核は歯状縁よりも外側にできる痔核で、自分でも気が付きやすい痔です。
外痔核は肛門周囲の静脈叢(細かい静脈のネットワーク)のうっ血が主体です。内痔核と同じように、下痢や便秘などの排便異常が主な原因となりますが、特に急な下痢などで何度も排便を繰り返すことで外痔核も突然できてしまうことが多く見られます。
急激に発生してしまうタイプの外痔核と、内痔核に付随して徐々に大きくなるタイプの外痔核があり症状は異なります。経過の長い外痔核はほとんど痛くありませんが、急速にできた外痔核、特に血栓性外痔核といわれるものは強い痛みを伴うことが多いです。血栓性外痔核では痔核内部に血栓(血が固まったもの)が認められ、急激に発症するのが特徴です。
外痔核は歯状縁より外側の、知覚神経が豊富な表皮(皮膚)部分にできます。したがって急速に腫れ上がった場合は強い痛みを伴います。内痔核とともにゆっくり膨れ上がった場合は痛みは軽く、表面も皮膚であるので破れにくく、出血をすることはまれです。ただし、パンパンに腫れ上がった血栓性外痔核は破れやすく(穿孔)、時に出血を認めます。
外痔核部分の皮膚は腫れとともに引き伸ばされますが、外痔核が萎んだ後にも元通りの皮膚にはなりません。伸びた皮膚は弛んで余るため、皮垂という肛門の皮のタルミになります。つまり皮垂は外痔核のなれの果ての姿、痔の名残りなのです。
ほとんどの外痔核は薬で治ります。軟膏や内服薬で肛門周囲の循環改善などを図ってやれば自然と縮小していきます。また、腫れが小さなものであれば薬すら不要で、生活習慣の改善だけでも軽快します。大きな血栓性外痔核のように痛みが非常に強く、薬で萎ませる間の我慢ができない場合などは、痔核部の皮膚切開をして外痔核の中身である血栓摘出をしたり、外痔核そのものを切り取ることもあります。
ただし、肛門の皮膚の伸びきった皮垂は外科的治療でしか治療できません。結紮術もしくは切除術が基本です。
日々の生活で厄介な痔ですが、自分で何とかできるものなら改善しましょう。
痔は生活習慣病です。日常生活の中で、肛門に負担をかけないように気をつけることから始めてみましょう。
これら日常生活の見直しをすることが、痔の改善の第一歩です。
そのうえで、治りやすい痔と自分では治せない痔について見てみましょう。
こば消化器・乳腺クリニック院長・理事長
医学博士 小林 真一郎
こば消化器・乳腺クリニックでは、肛門外科に関連する情報を公開しております。
以下の情報も合わせてご確認下さい。
〒651-1112
兵庫県神戸市北区
鈴蘭台東町1丁目10-1 善喜ビル4階