痔瘻(痔ろう)

肛門腺から細菌が侵入・感染して炎症を起こし、さらに細菌が組織深くに入り込んで菌の巣穴ともいえるトンネル(瘻孔)を形成する病気です。瘻孔が次第に伸びてゆくと、そのうち肛門近くの皮膚に穴が空いて瘻孔内にたまった膿が排出されますが、これが治ったり悪化したりを繰り返す病気です。自然に完治することはまれで、何十年と治らずに癌化する場合もあります。

痔瘻の発症パターンは次の2つです。①肛門周囲膿瘍として、急激な激しい痛みを伴って肛門の縁が腫れてくる場合。②いつの間にか肛門の近くにニキビのような固いしこりができて、そこから少量の膿が出て下着が汚れたりする場合。異なる症状の表れ方ですが、基本的な病態は同じです。

痔ろうの原因

肛門腺(肛門陰窩)という、歯状線近くの直腸のくぼみから細菌が入り込んで痔瘻は引き起こされます。入り込んだ細菌は肛門周囲の皮下脂肪組織まで到達します。そもそも脂肪組織は細菌感染に大変弱いため、感染は一気に拡大して膿のたまり(膿瘍)を形成するようになります。これが肛門周囲膿瘍です。

肛門周囲膿瘍

膿瘍ができると急速に大きくなり、やがて皮膚が破れて体外に膿が排出されます(医師が人為的に切って出すこともあります)。こうなると一旦症状は軽快しますが、細菌の侵入経路(いわば菌の巣穴)はそのままです。こうしてできた細いトンネルが痔瘻(あな痔)というわけです。

痔瘻の成り立ち

痔ろうの症状

痔瘻の初期イコール肛門周囲膿瘍と考えるならば、まず肛門周囲の強い痛みです(肛門そのものでなく、ちょっと外れた感じ)。また痛い部分は赤く腫れ上がりを持っています。ひどい場合は全身の体温が上昇して 40度を超える場合もあります。

さらに膿瘍がつぶれるとが出てきます。何やら便とは異なる臭さの汚れ(膿)が下着に付着して気づくこともあります。

上記のような明らかな症状がなくても、じわじわと同様のことが進行して痔瘻を形成することもあるので注意が必要です。この場合はあまり高熱や激しい症状は出ません。

痔ろうの分類

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Ⅰ型痔瘻

皮膚組織の浅い部分にできる痔ろうです。
肛門線ではなく裂肛の裂け目に便が詰まって化膿している場合もあります。
発生頻度はあまり高くありません。
瘻管が肛門上皮、または皮下にあり、肛門括約筋をつらぬいていない痔瘻です。皮下痔瘻、または粘膜下痔瘻とも呼ばれます。裂肛の裂け目に便が詰まることにより起こる場合が多く、肛門腺が原発巣でないこともあります。発生頻度は高くありません。

Ⅱ型痔瘻

一般的な痔ろうです。
別名を「筋間痔ろう」といい、内肛門括約筋と外肛門括約筋の間に管ができるのが特徴です。
歯状線と呼ばれる部分よりも高い位置にできるものを「高位筋間痔ろう」低い位置にできるものを「低位筋間痔ろう」として区別されます。
筋間痔瘻とも呼ばれ、痔瘻の70~80%を占める一般的なものです。内肛門括約筋と外肛門括約筋の間を瘻管が走る痔瘻で、瘻管の深さによって、歯状線より下にできるものを「低位筋間痔瘻」、上にできるものを「高位筋間痔瘻」といいます。

また、瘻管が1本のものを「単純型」、瘻管が2本以上あるものを「複雑型」といいます。

Ⅲ型痔瘻

男性に起こりやすい痔ろうです。
肛門の背中側から化膿し、深くて大きな膿瘍ができるのが特徴です。
外肛門括約筋もつらぬいて管ができます。
瘻管が肛門括約筋の奥にある肛門挙筋より下方に発生し、坐骨直腸窩痔瘻ともよばれます。痔瘻の約20%を占め、ほとんど男性に起こります。肛門の背側が原発口となり、そこから便が入り込むと内肛門括約筋と外肛門括約筋、そして坐骨直腸筋の間(コートネイのスペース)が広いために、深くて大きな原発巣ができやすくなります。この原発巣から外肛門括約筋をつらぬいて、左右に瘻管ができます。瘻管が片側のものと両側のものがあります。

Ⅳ型痔瘻

まれに起こる痔ろうです。
肛門括約筋の奥にある肛門挙筋をもつらぬき、複雑に管ができるのが特徴です。
骨盤直腸窩痔瘻とも呼ばれ、発生はまれです。肛門挙筋をつらぬいて進行します。

Ⅰ型やⅡ型の一部では単純切開で治療することが可能です。
その他のⅡ型、Ⅲ型、Ⅳ型では膿瘍や管を取り除く手術(Coring out)や、シリコン・ゴムドレーンを利用したシートン法と言われる手術法が行われます。
場合によってはいくつかの方法を併用して治療にあたる場合もあります。

痔ろうの治療法

痔瘻のような狭い空間の細菌は抗生物質をいくら使用しても根絶できません。そのため残念ながら痔瘻の治療法は基本的に手術が必要です。

痔瘻治療の大原則は『膿を完全に排出しきること』です。一時的に膿を出しても完治はしません。痔瘻はいったん治ったようにみえても必ず再発して、放置すれば数十年にもわたって繰り返すのはこのためです。十分に膿を出すためには瘻孔を切開開放することが確実なのでⅠ型痔瘻の場合は図のように切開排膿して治療します。

Ⅰ型痔瘻の治療

しかしⅠ型痔瘻を除くⅡ~Ⅳ型痔瘻の場合、痔瘻のトンネル(瘻孔)は肛門括約筋を貫通しています。膿を出すために単純に切開してしまうと肛門括約筋をも傷つけ、肛門括約筋不全(肛門が緩んで便失禁を起こす)を招いてしまいます。

痔瘻治療で肛門括約筋トラブル

このため当院では、seton法(シートン法)という根治性が高く合併症が少ない方法にcoring out(くりぬき法)を症例により組み合わせて、なるべく早期に治癒するような工夫をしています。

痔瘻のシートン法という手術瘻孔の位置を肛門括約筋に関わらないところまでゆっくりと移動 させていくところがポイントです。

シートン法による痔瘻手術1

瘻孔内にドレーンという膿を体外に導くための索状物を留置し、さらにドレーンをループ状にして体組織に一定の張力がかかるようにします。張力によって瘻孔を徐々に移動させ、Ⅱ~Ⅲ型痔瘻をⅠ型痔瘻と同様の状況にもっていってから治療すれば全ての痔瘻がほぼ合併症なく治療できます。ゆっくり瘻孔が移動することで肛門括約筋は少しずつ切れてゆき、また同時に治ってゆくので完全に分断されることは防がれます。

シートン法による痔瘻手術2

Ⅰ型痔瘻と同様、皮下瘻孔としたのちに切開すれば合併症なく治療ができます。

シートン法による痔瘻手術3

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