乳がん検診の重要性
1. はじめに
乳がん検診が重要である最大の理由は、最も多くの女性が罹患するガンが乳がんであり、さらに悪いことに年々増加傾向であるということです。最新の統計では9人に1人が乳がんに罹患することが明らかになっています*1。
好発年齢として40歳代~60歳代に多いとされていますので、40歳以上の女性(少なくとも74歳までは)は自覚症状が全くなくとも定期的に乳がん検診を受けることがとても大切です。長寿高齢化に伴って、近年では80歳以上の女性のなかにも乳がん罹患者が数多く発見されており(当院の患者様で手術を受けられた最高齢の方はなんと97歳!)、20代~30代前半の若年性乳がんの方も少なからずいらっしゃることから、「若いからまだガンなんてならないだろう」「もう年だから乳がん検診は必要ないか」といった先入観を持たずに、乳房に異変を感じた場合には速やかに乳腺科を受診するようにしてください。
*1:国立がん研究センター
1.統計情報のまとめ 2.罹患(新たに診断されること)
早期発見のメリット
乳がんが早期発見できた場合、根治の可能性が高められるという大きなアドバンテージがあります。そもそも乳がんは他のガンに比べて比較的治療しやすいガン*2(ガン罹患数は第1位であるにもかかわらず、死亡数は第5位)ではありますが、早期発見によってさらに完全寛解(治癒)の可能性が高まります。また癌腫が小さなうちに発見されることで手術による切除範囲を小さく抑え、結果として術後の整容性の改善(乳房を残して術後の傷をより目立たないようにできる)が見込めます。
2. 乳がんとは?
(簡単な説明と乳がんの発症リスク)
乳がん検診の目的とその重要性
乳がんとは乳房にガン組織を有する場合に用いる病名です。乳房は乳腺と脂肪組織からできています。乳腺は乳管と小葉という2つ要素から構成されており、ほとんどの乳がんは主に乳管から発生する乳管癌(90%以上)ですが、小葉から発生する小葉癌も5%強存在します。このほかに粘液癌などの特殊型乳癌があります。このほかにも転移性乳がんなど全く他の組織成分から成り立つ乳がんも存在します。乳がんといっても様々な種類があるのです。
乳がんの危険因子
原発性乳がん(転移性以外の乳がん)の発生・増大には女性ホルモンであるエストロゲンが関与していることが分かっており、長期間エストロゲン値が高い状態であることが乳がんのリスクを高めてしまうといえます。
具体的には以下のようなものが挙げられます。昨今の少子高齢化など、日本のおかれている社会情勢を鑑みると、乳がん患者さんが増加していることもうなずけます。
- 初経年齢が早い
- 閉経年齢が遅い
- 出産歴がない
- 初産年齢が遅い
- 授乳歴がない
- 肥満(特に閉経後)
- 乳がんの家族歴(一親等レベル)
- 良性乳腺疾患の既往歴がある
- 飲酒の習慣がある
上記チェックリストに当てはまる方は特に乳がん検診を受けるべき対象といえます。
3. 乳がん検診の種類と検査内容
各検査の比較と選び方
マンモグラフィ検査
マンモグラフィとは乳房専用のX線撮影(レントゲン検査)のことです。撮影の際には、2枚の板状のパーツ(圧迫版)で乳房を挟んで薄く伸ばしたうえで撮影します。この乳房を圧迫するという点が「マンモグラフィが痛い」といわれるゆえんなのですが、しっかりと圧迫せずに撮影すると、ぼやけた画像になったり乳腺組織と乳がんの部分が重なってしまったりと診断に適した画像が得られなくなってしまいます。
このためレントゲン技師さん(最近では女性の技師さんが多くなりました)も心を鬼にして乳房を圧迫して撮影しているのです。正しく撮影されたマンモグラフィ画像では乳腺組織が均一に展開されており、腫瘤があるときには形状など細部まで視認しやすくなり、乳がんの小さなサインである「微小石灰化」が見つけやすくなります。超音波検査では見つけにくい「微小石灰化」をみつけるためにはマンモグラフィは優れた検査方法といえます。
乳房全体がまんべんなく描出されるように、通常は2方向(①横から挟む内外斜位方向(MLO)②上下から挟む頭尾方向(CC))撮影を行いますが、集団検診などではMLOのみの場合もあります。大勢の人を対象に迅速に検査ができるマンモグラフィは現時点で最も有用な検診手段といえます。(推奨グレードB(乳がん検診ガイドライン*))
マンモグラフィと超音波検査の違い
検査の方法
マンモグラフィ:メリット
- 視診・触診では見つけにくい小さな病変を発見できる
- 超音波検査では発見しにくい石灰化※が確認できる
- 乳がんの死亡率を減少させることが科学的に認められており、国の指針にもとづいて実施される乳がん検診の方法として推奨されている
- 乳房内にしこりがあるかどうかを診断するのに有効
- 被ばくの心配がなく、妊娠中やその可能性がある場合でも検査を受けられる
- 痛みなどの体への負担がなく、迅速かつ簡便に行える
- 乳腺の密度が高くマンモグラフィではしこりの有無が分かりにくい場合でも、しこりを確認することができる
マンモグラフィ:デメリット
- 検査に痛みを伴うことがある
- 乳腺の密度が高いとしこりを見つけにくいことがある
- 妊娠中やその可能性がある場合は検査を受けられない
- 石灰化※を確認するのが難しい
※石灰化:乳房の一部にカルシウムが沈着したもので、乳がんで確認されることがある
乳がん検診ではどちらの検査を受ければいい?
40歳未満の若年女性の場合、乳腺が発達しているため、マンモグラフィの画像が全体的に白っぽくなり、しこりの有無が分かりにくいことがあります。
こうした乳房を「高濃度乳房」といいますが、このような場合は超音波検査が有用です。当クリニックでは、30歳未満の女性で乳がん検診を希望される方には、超音波検査を推奨しております。
検査の概要と目的
どのように行われるか(手順と準備)
超音波(エコー)検査
乳腺超音波検査とは、専用の探触子(プローブ)を乳房の表面に当てて、乳房内の構造を可視化し画像としてチェックする検査です。人体に無害な超音波を使用するため、放射線被爆がなく、妊娠中でも検査を受けられるメリットがあります。
授乳中の方もマンモグラフィで圧迫することが出来ないため基本的に検査ができませんが、超音波検査なら問題なく受けられます。体表を潤滑剤をつけたプローブで軽くこする検査であるため、痛みがないという事もメリットでしょう。
若年女性の場合、乳房内脂肪組織が少なめで乳腺が発達している場合が多く、マンモグラフィを撮影した場合に得られる画像が全体的に白くなり(高濃度乳腺)内部のコントラストがはっきりしないことから腫瘤陰影や石灰化が分かりにくいことがあります。
このような場合には超音波検査が適しています。バッグを用いた豊胸手術後の方もマンモグラフィを受けていただくことは難しいですが、超音波検査であれば問題なく受けていただけます。
以上のことから当院では以下のような検査方法を推奨しております。
- 40歳以上の方:基本的にマンモグラフィ・超音波検査の併用
- 30歳以上40歳未満の方:症状により超音波検査とマンモグラフィの併用も検討
- 30歳未満の方:基本的に超音波検査のみ、しこりがある場合に限りマンモグラフィ併用
- 妊娠中・授乳中の方:超音波検査のみ
- バッグ使用した豊胸手術後の方:超音波検査のみ
MRI検査
検査の概要と目的
MRI(磁気共鳴画像)検査とは、強力な磁場の中で人体の臓器・病変ごとの水素原子核の動きの違いを利用して映像化する検査です。 X線撮影やCTのようにX線を使用しないので被爆せず無害であるというメリットがある反面、撮影時間が比較的長くかかり、また撮影時に大きな音がする、検査機材が巨大で費用がかさむといったデメリットもあります。 MRI検査は乳腺領域において、痛みを伴わず他の検査に比べると精度も高いため精密検査として有効といえます。 ただ検査時間が長く費用が高いため一般的な検診として利用するにはまだまだ課題があるといえます。 実際のところ、乳がん患者さんに対しての手術前精密検査などにMRIが用いられることがほとんどです。 (乳腺MRIによる検診は保険適応外であり自費になります。)当院では乳がんの確定診断がついた方はガン拠点病院等にご紹介するため、そちらでMRI検査などは施行していただきます。
触診と視診
昔は広く行われていた視触診による乳がん検診ですが、現在は視触診単独で行うことはエビデンスがなく推奨されません。行うとしてもマンモグラフィと併用することが推奨されています*。
当院では基本的に触診による乳がん検診はおこないません。
4. 受診に最適なタイミングとは?
検診の推奨頻度
乳がん検診は基本的に2年に1回でよいとされています。これは対策型乳がん検診(地域住民全体を対象とした検診)の目的がその地域の乳がん死亡率を減らすことだからです。
しかし個人が任意検診を受ける場合は、早期発見をすることで人生のリスクを減らし質の高い余生を送ることが目的であるため、1年に1回乳がん検診を受けることをお勧めします。
生理周期と検診のタイミング
乳がん検診には乳房のハリの少ない時期が適しています。具体的には生理前から生理中は避け、生理の終わりかけから2週間以内くらいの期間が最適です。
ただし乳房のハリ加減には個人差もあるため、自分自身で胸が一番柔らかいと感じる時が最も検診に向いている時期と覚えておきましょう。
上記以外の時でも検診は受けられますが、検査時の痛みが強くなったりするため避けるほうが無難でしょう。ただし何かしら自覚症状があるときはあまり時間をおかず、乳腺科を受診してください。
妊娠中、授乳中の乳がん検診
基本的に超音波検査のみによる検診になります。
妊娠中は放射線被ばくを避けるためマンモグラフィは受けられません。
また授乳中の方も乳房を圧迫することが出来ないため(母乳があふれてきて大変なことになります)マンモグラフィは受けられません。
40歳未満と40歳以上で異なる検診のアプローチ
前述のとおりです。
40歳未満の方と40歳以上の方では、乳腺の状態や検査の精度の違いにより推奨される検診方法が異なります。詳細は前述の内容をご参照ください。
家族歴や遺伝的リスクがある場合の考慮点
遺伝性の乳がんは乳癌全体のうちおよそ1割弱です。さほど多いわけではありませんが、そもそも乳がんが9人に1人と非常に多い疾患のため、必要以上に遺伝(家族歴)を気にされる方が多い印象です。
乳がんと診断された方のうち一定の条件を満たす方は乳癌遺伝子BRCA1/2検査が保険適用となりますが、あくまでガンと判明した後の話ですので、実際には娘さんを持つ母親が乳がんになった場合などに行うことが多い検査です。
自費で行う場合には数十万円と高額な検査になります。
5. 乳がん検診の準備と注意事項
検診前の準備
乳がん検診では上半身の着衣をすべて取り外していただく必要があるためワンピースなどは避け、必ず上下がセパレートできる服装でお越しください。
腕や指のアクセサリーは問題ありませんが、首元に着用されるネックレスなどはなるべく避けてください。マンモグラフィ撮影の邪魔になる場合や超音波検査で用いる検査用ゼリーで汚れてしまう可能性があります。
香水や制汗剤などは問題ありません。またタトゥーも問題ありません。(MRI検査ではタトゥーが問題になる場合があり、事前に申告が必要です。)
6. 検診結果の理解とフォローアップ
検診結果の見方(カテゴリー分類や所見の説明)
企業検診や人間ドックでは検査所見について詳しく記載されているケースはまれで、ひどいものは左右のどちらの乳房に問題があるのか読み取れないものもあります。
しかし本来マンモグラフィの解釈ははっきりしています。カテゴリー1~5の5段階評価で、3~5の3カテゴリーは要精密検査です。
わかりやすく表現すると、カテゴリー3は良性と思われるが念のため精査推奨、4はそれなりに乳がんが疑われる、5はほぼ間違いなく乳がんだろう、というものです。
検診の超音波検査では乳房内に様々な腫瘤陰影が見えた場合、その質的診断(良性悪性の判断)まで踏み込んでいることは少なく、精密検査依頼先に委ねることが多いようです。
当クリニックのように精密検査をおこなう病院であれば、超音波検査だけでも良性悪性について医師の判断を聞くことができます。
精密検査が必要な場合の対処法
再検査や追加検査の重要性と手続き
集団検診としてのマンモグラフィは多くの自治体で50歳以上の方の場合MLOの1方向の撮影しか行わないため、精密検査となるとCC方向の検査の追加や再撮影を行うことがあります。 また超音波検査を追加施行し、より病変部を多角的に画像検証します。この結果やはり乳がんが否定しえない場合に、疑わしき箇所の細胞を採取するなどの病理検査を追加施行することになります。 (病理検査には少量のばらけた細胞を採取する細胞診断と、まとまった組織を調べる組織診断があります。)
7. 乳がん検診に関するよくある質問(FAQ)
Q: 乳がん検診は毎年受ける必要がありますか?
A: 乳がん検診の目的は早期発見にあります。そのため、最低でも2年に1回、可能であれば毎年1回の受診をおすすめします。特に40代は乳がんの発症リスクが高まる年代ですが、マンモグラフィ検査のみでは見逃されるケースがあることが近年の調査で明らかになっています。当院では、マンモグラフィと併せて超音波検査の実施を推奨しています。
Q: 乳腺症だと乳がんになりやすいですか?
A: 乳腺症は基本的に生理的な乳腺の変化であり、乳がんとの直接的な関連性はほとんどありません。ただし、乳腺症の特徴として、しこりが多く感じられたり、乳腺が全体的に硬くなる傾向があるため、乳がんと紛らわしい場合があります。また、触診では異常を見つけにくいこともあります。そのため、このような方は定期的にマンモグラフィや超音波検査などの画像診断を受けることを強くおすすめします。
Q: 生理中や授乳中でも乳がん検診を受けられますか?
A: 生理中や生理前は乳腺が張りやすく、検診にはあまり適した状態ではありません。マンモグラフィ検査では乳腺を圧迫して平たく伸ばしますが、生理中はこれにより余計な痛みを感じることがあります。 授乳中も同様に乳腺が発達しており、検査時に強い痛みを伴ったり、乳汁があふれる可能性があります。どちらの場合も検診自体は可能ですが、できるだけ生理が終わった直後や授乳期間が終了した後に受診することをおすすめします。
8. まとめ
乳がん検診の重要性
乳がん検診は、早期発見によって治療の成功率を大きく高めることができます。また、定期的な検診を行うことで、乳がんの早期発見だけでなく、術後の整容性を保つことも可能です。乳がんは全年齢層の女性にとってリスクとなるため、定期的な受診が重要です。
検診の早期受診を推奨します
年齢や生活習慣、家族歴に関係なく、自覚症状がなくても乳がん検診を受けることが大切です。「若いから」「年をとっているから」といった理由で検診を控えず、乳房に少しでも異変を感じたらこば消化器・乳腺クリニックにて早めの受診をおすすめします。
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